「雫」 

 

2016年
大宮で出逢ったさまざま物いろいろな糸、便箋、封筒、切手

 

サイズ 可変(インスタレーション)


「さいたまトリエンナーレトリエンナーレ2016」
 2016年 9月24日ー12月11日  市民会館おおみや 旧地下食堂

 

 http://saitamatriennale.jp/artist/288.html





 秋山さやかは、ある場への綿密な探求と作家自身との関係づくりを素地として作品を制作していく。このたび、さいたま市内で秋山が注目した大宮区は多くの鉄道路線が交差し、人々や物資を運ぶ結束点である。さまざまな人・物・事が交差するこのまちで、6月6日~9月23日までの滞在により、日常生活を過ごす間に出会った物、たどった道、地場のエネルギーを自ら受けながら、「さいたまで見つけた物」をつなぎあわせ、まちと人々との出逢い、記憶が紡ぎ出され、可視化されていくインスタレーションを制作した。
 市民会館おおみや・旧喫茶室への階段を下りていくと、薄暗がりの中に灯るランタンのような、あたたかな光で満たされた空間が現れる。まるで劇場のステージであるかのような錯覚を覚える、その、ガラス越しに見える出来事の正体は、吊り下げられた無数の手紙と日々の暮らしの中で出会い、拾い上げられ、そして零れ落ちそうになったものたち。そのおびただしい数のひとつひとつの手紙は、毎日、秋山本人がつづり描き、さいたまでの発見と出逢いを、色とりどりの糸で、一針、ひと針、縫い込み、3ヶ月半自らに宛てて送りつづけたものである。時間と距離をめぐり、再び自らの手に戻ってきた言葉や思いは二度と開封されることはない。閉じ込められた記憶と日々のくらしの痕跡が、無数の雫となって降り注ぎ、オレンジ色の光の中で静かに揺らめいている。それは、私たちの中に日々生まれては消えていく、たくさんの行き場のない言葉や思いが漂う、いつかみた夢の風景のようでもある。


日沼禎子氏 (さいたまトリエンナーレ2016 プロジェクトディレクター)
さいたまトリエンナーレ2016カタログより









Photograph: Hideto NAGATSUKA